『たとえば キスできる範囲にいること』
座一



「仕事、首になった」
今にも泣き出しそうな顔で、
「別れてもいいよ」と言ったきみ


半年探して やっと仕事が見つかったから
長い間 待たせてごめんねって
プロポーズされた 矢先のことだった


六畳間に ぎっしりの家財道具
かろうじて 2組ひける布団
それでもきみの腕枕が 心地よくて
けっきょく朝まで 分かれて眠ることはなかったね


欲を言えば
まだまだ おしゃれしたいし
週末は外食したいし
もっと頼れる人になってほしいとか
いろいろ浮かんでくるけれど


一緒に過ごして 8年目
何度もあった 別れの危機
「さよなら」って 冷たいメールなのに
どんなに苦しくても愛しかった
どんなに忘れたくても きみ以外じゃダメだった
気付いたら きみも同じ気持ちで
結局元さやにおさまって 何やかんやでおのろけで
パソコンもない六畳間の一角にも
すっかり慣れ落ち着いた


家庭環境も複雑で
友人もいない きみは
唯一私にだけ とびっきりの笑顔をくれる


ダメ男?なのかもしれない
もっといい人いる?のかもしれない
はたから見れば そうなのかもしれない
それでもいい それでもいい
ここまで愛してしまったからには
離れられない 離したくない


だって ムリに引き裂いたなら
半身がもがれる痛み
8年前の 出会いのタネが
お互いの心にしっかりと根付いているから――


「オレといてしあわせ?」って 何度も聞く きみ
離れていかないで、って 顔に全部 書いてあるよ 

 
嘘やずるが出来なくて
あまいものが欲しいくちびる
愛したがりのさみしがり


付き合い記念日 クリスマス バレンタイン お互いの誕生日…
春夏秋冬 数えきれない思い出たち
これからのことはまだ分からないけど 今



たとえば キスできる範囲にいること



そんな何気ないことが
何より 幸せだったりするの







自由詩 『たとえば キスできる範囲にいること』 Copyright 座一 2016-01-31 21:26:12
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