名
あおい満月
きみはいつも、
真正面からは現れない。
肌寒い風の吹く如月の、
白樺の間から手を伸ばして、
私の背中を包み込む。
それは時に冷たくあたたかい。
きみが透明な糸を指に通して、
あやとりをする。
私はいつもきみのあやがとれなくて、
自分の指に絡みついた糸をほどくのに
いつも焦っている。
晴れた日に外に出ると、
きみは風を追いかけながら走る。
きみはだんだん速くなる。
きみはやがて風とひとつになる。
私はいつもきみに追いつけなくて、
眩しげにきみを眺めてばかりいる。
ある日、
きみが突然泣いていた。
きみはきみでいることに、
疲れたと涙をこぼした。
私はきみを抱きしめるかわりに、
大好物のオムライスを作って、
きみに食べさせた。
お腹がいっぱいになったきみは、
スースーと心地よい寝息を立てながら、
眠り続けた。
何度もきみを手放そうとした。
でもできなかった。
きみは私のなかを流れる血流そのもの。
きみは、きみの名は、
そう、詩だね。
きみという詩は、
私の海だから。