天秤
藤原絵理子
越えられない 許されてもいない
つるんとした壁を 軽々とひと羽ばたきで
容鳥は笑顔で越えていく 見たこともない
世界へ 想像の中にしかない静かな森へ
平穏な壁の中は 灰色の焦燥に
氷に閉じ込められた魚の目がきらきらと
部屋の中には春が居座って あたたかく
身勝手な傍観者になる ぬくぬくと
天秤はひとつしかないはずなのに
別の世界を夢想しているうちに
天秤がもうひとつ 曇った夜空に現れる
心かき乱す 容鳥の羽音はそそのかす
根の生えた重い腰を 浮かせようと
囁きかける 穴を穿て その壁を壊せと