冬眼鏡
ただのみきや
風が大河のように重い土地で
腰を落とし 捻じれて育った
樹は 首を傾げ 雲を聞いている
節くれだった片目で
ヒレンジャクたちのお喋りに
口をはさむでもなく
遥かな海や
見渡す限りの黄金の穂波を
描いてみては
犬を連れた男の白い息
消え去る生のほのめき
雪が枝を静かに撓ませる土地で
ただ地に深く 太く 育った
樹は 今もその指先に
幼子の芽吹きを感じながら
風に寄り添う ふりをして
空に――
何やら書いている
鳶の眼差しが上からなぞる
男は足元ばかり見ていた
《冬眼鏡:2016年1月23日》