器官
乾 加津也
器官の短詩(四作)
目
畑に落ちた目は農薬まみれ
瞬きをひとつして
流す涙
バブル経済でも畑には朝露(ほうせき)
ひかりと温もり、太陽が
労働の背中を見つめていた
外に出るのもおっくう
もっぱら炬燵の時間が増えた
あの目が流す涙を知ろうともしない
腕
所狭しと吊るされた、黒光りの調理器具たち
腕をひとつかくまっている
昔繁盛した厨房のこと
俺たちを
俺たちとして輝かせてくれたマスター
何があっても守り抜く
今は枯れた、たくましい血脈
重力に沿って、まっすぐ落ちたがっている
腕の望みはいつまでも叶いそうにない
耳
穴が隠しもつ
果てしのない力を信じよう
方向音痴でも
この山脈を行き着けば
聞く以外の動詞を知ることができる
舌
みいつけた
茶封筒のような
舌
お粗末なのににょろにょろと