魂の営み
たけし

ピークだ!

見上げれば
樹木生い茂る急傾斜の山道の先 雪を被った一際高い平らな山影
鉛と化した両脚 スッと軽くなり
速足半ば駆け足 息切らし到着
してみれば またしても山腹の丘 泰然と平らに広がり
次なる細い山道が繋がり上部山腹へと巻き付く

もう何時間登り続けたのか分からない
ただ日だけが次第に陰っていく

〈ひょっとして俺が目撃したあの頂上はマボロシだったのか〉

思わずリュックを投げ出し
雪の上に仰向けになり
もはや降ることも昇る気力も湧かず
背負った60キロの荷の重さに全身の筋肉が痙攣し続ける

しばらく呆然と休み
空身でフワフワとさ迷うち
平らにな山腹の端 石灰質の断崖絶壁 スッパリ切れ落ち
無意識のうち身を乗り出し覗き込む

〈終わる いっそ一思いに飛び込めば 全てから解放される〉

麓から見上げた白銀に輝くピーク
あの時深く感じたその荘厳さと包み込まれるような遠い懐かしさ洗福感

あの頂上に憧れ
辿り着くと決意したのは自分自身だ

〈終われない解放されない 飛び込むくらいなら独り雪に埋もれ倒れるまで足を運んでやる!〉

迷いは次第
白銀に輝く頂上 そのピークを包む静謐円かな黄金の光輪 の光景に打ち消され
私は再び60キロのリュックを背負い山道に向かう

山道はしばらくして森林限界を超え
岩と雪のミックスした草木一つない剥き出しの岩稜地帯へと変わり
私はアイゼンを装着しピッケルを取り出す

あの頂上は相変わらず姿を隠したまま 
岩稜の傾斜が厳しくなりアイスバーンと化した雪の量が増えていく
延々


自由詩 魂の営み Copyright たけし 2016-01-21 15:58:14
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