-273.15
霧慧未央
しんしんと降りしきる雪のなか
そうっと手を伸ばしてみるけれどからっぽをつかんで
クソっ! って舌打ちしたとき、ふとひとりで戦ってるともだちのうたがきこえた
彼は世界を暴くために言葉を選んだ
うたを編んで、物語を紡いで、脚本を組み立てて
正義の国で生きることの意味を問う
正義の国を破壊する兵器を作り続ける
とんだ絵空事だってあざ笑われようと
ただの証明であって命題の解とはちがうってあざ笑われようと
いつかあまねくいのちにもれなく適応される真実を言葉で突きつけるべく
ワンルームのはしっこでぐるぐるぐるぐるペンを走らせては血を流し続けている
たくさんの戦友が死んでいきました
言葉は社会に当たりまえのように虐殺されています
言葉を発することを恐れたひとたちに黙殺されています
くちをつぐんだ意志の総算たるは現実に対する諦観であり
言葉して斃れていったいのちに対する悔悟そのものであり
あやふやな真実を代弁してもらうほうを選ぶ、こころを売り渡すということなのです
死屍累々の詩人を踏み台に構築された虚構を、法やら託宣やらと教えこまれて生かされています
そんな世界まっぴらごめんだよ
そんなかみさまいらねえんだよ
しんしんと降りしきる雪のなか
白と黒で覆い尽くされた世界の限界に立っている
もうおんなじ場所でめぐりあうことはないんだろうけれど
なんとなくからっぽのこころを埋めてくれるような気がしたから
ちょっぴり生きようと思っちゃって、ひさしぶりに石油ストーブのスイッチを入れた