廃墟徘徊
陽向∮

七歳の頃五十年前と聞くと古い民家が浮かんだ
その古い民家の中に入ると壁に御札がはってある
日本人形があり埃かぶった和菓子の箱もある
この民家には悪霊がうようよといて
その中に白い着物を着た皺だらけの顔のお婆さんがいる
よく井戸から水を汲んできてそのお婆さんに飲ませたものだ
そのお婆さんは私を睨みながら水を飲む
口を赤いハンカチで拭い暫くすると姿が段々ぼやけて消えてしまう
私はこのお婆さんはお墓の元へ帰っていくのだと思っている

その後道を歩いているといつも大きな建物の廃墟へ着く
廃墟の中の床に五十年前の新聞紙が散らばっている
泥水で床は濡れていてここにも悪霊がうようよいる
ふらふらと徘徊する私の服を
痩せ細った髪の長いお爺さんが引っ張ってくる
私が抵抗すればするほど力を込めて引っ張ってくる
どこかへ連れていこうとする
連れていこうとしている場所は出口のない洞窟だ
服を脱ぐとズボンを掴む ズボンを脱ぐとパンツを掴む
私は性器が見えないように必死でパンツを引っ張り上げる
お爺さんは悲痛な無表情のままパンツを引っ張ってくる
他のたくさんの悪霊達も無表情で私を見る
焦燥感と恥辱を感じながらパンツを脱ぎ捨てると
今度は髪を掴もうとしてきたので大声を上げたら
お爺さんも悪霊たちも一瞬で消えた

廃墟の中で私は泣き喚いていた
外に出られなくなってしまったからだ
悪霊たちが私をベタベタ触ってくる
髪を引っ張ったり性器を触ってきたり腕を強く掴んできたりする
私はもう二度とここから出られないと悪霊たちに洗脳され
毎日放心状態で廃墟を徘徊し十一年経った
ある日とても大きな地震が起こり廃墟の窓が外れたのだ
私はすぐに外へ出たが中には私についてくる悪霊もいた
古い民家の元へ行ってみたがすでに無くなっていた
家に帰ると母と父が私を泣きながら抱きしめる
それから三年経ちまだしつこくついてくる悪霊と共に
今はあの頃とは比べものにならないほど生き生きと生活している


自由詩 廃墟徘徊 Copyright 陽向∮ 2016-01-15 22:23:08
notebook Home