そして始まりと終わりにミンク鯨を食べたものたち
アラガイs


溜め池の波紋が大きく揺れた
葦原に身を隠してはこちらの様子を伺っていた餓鬼どもが小石を投げ入れたのかと思った
そうか、いつまでも泣いてばかりは居られないのだ
ここから先はこの御玉ヶ淵に架かる橋を渡り切らなければその先へは進めないと書かれた掲示板を眼にすることになる
光彩の雲に浮かぶ山頂の門をくぐる
羅漢座石にどっかりと腰を据えた閻魔の判断を仰がなければどの道後戻りはできないのだ
橋を渡り切ればそれは恐ろしい形相をした赤鬼と青鬼が待ち構えていて
煩悩の輪をひょいと摘まむとこの鬼たちはそこで罪人か善人であるかを見極める
善人ならばそのまま巨大な重石を背負わされて山裾を抜け登頂へと進めるわけだが
大方の死人は罪人の煩悩を背負い薄暗い洞窟の中へと押し込まれることになる
一歩洞窟の中に入れば半分人間の顔をした醜い獣に身体の一部を喰われることにはなりはしないだろうかと
、恐怖のあまりに逃げ出そうなどと考えてしまうだけでも
白髪姿の婆へ変化させられ鬼たちとさ迷い続けることになる
そして旅人の魂は永遠に魔物だらけの子宮に閉じ込められたまま行き場を失う
よくよく考えてみれば赤鬼に魂を抜き取られるのも
青鬼に石を背負わされるのも同じ恐怖には違いない
ここまで来たからには旅人には引き返す手当など許されてはいないのだ
橋を渡り切ったところで足がすくみ立ち止まる
大きな波紋の中心からどす黒い潮の塊が吹き出して飛沫に飛び散った
暗い雲が何層にも分かれると徐々に剥がれ落ち
辺りは虹色のカーテンに包まれていた 。











自由詩 そして始まりと終わりにミンク鯨を食べたものたち Copyright アラガイs 2016-01-14 03:31:34
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