嘔吐
イナエ


熟柿の臭いにおぼれる眼底
海の深み遙かに沈んだ蓚酸の
記憶がこみあげ喉を焼く

都会の底をさまよう脳が
見上げた夜空の淵に
人魚の嬌声が泡立ち  

怒りで放った銛は
領巾にからめとられ
振り落とされて
街路樹を焼く

  海溝を彷徨い拾い集めた人骨と
  交換した安物のアルコール
  腹立ち紛れに叩いた街路樹から
  厳つい父が浮かび上がって
  舌が爆ぜる

転写された人骨の吐息
街路樹に降り積もって
人魚の腐臭が立ちこめ
せり上がる胃を路傍に吐き散らす


自由詩 嘔吐 Copyright イナエ 2016-01-13 22:23:31
notebook Home