幸せの神様
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幸せの神様


(薄暗い照明。登場人物の一人一人にスポットがあたっている。舞台の右袖:小僧の神様がに立って鼻水を垂らして笑っている。舞台の中央:去勢したナルシスが黄色いワンピースを着てしくしく泣いている。)

ナレーション:
微笑
クス クス クス クスッ
ほうら、また小僧の神様が笑っているよ
クス クス クス クスッ
あの神様は他の神様とちがって
あたまが少し足りないんだって
クス クス クス クスッ
クス クス クス クスッ
だから幸せの神様なのだって
クス クス クス クスッ
クス クス クス クスッ


(舞台の右袖からジーパンを穿いてタバコを銜えた天邪鬼が歩いてきて、泣いているオカマのナルシスを認めて声をかける。)


天邪鬼:「あらあら、お嬢ちゃんまた泣いてるな...」


(オカマのナルシスはしくしく泣き続ける。天邪鬼は二・三歩ナルシスに近づき話を続ける。)


天邪鬼:「...おらあ、天の邪鬼だからつって、そんな嫌な顔すんない。おいらの住まいはお天道様の裏側、あんたのとこに居候してるわけじゃあねえんだ。あんな、おれたち永いつきあいなんだ、幼馴染みよ。そりゃあ、あいつは馬鹿だかんなあ、頭に来るのもわかんだ。でも、いつもひょっこりあらわれんだよ、神様だからな、そんで、よせばいいのにクスクスッってやっちゃうんだな。当人は心配してるつもりなんだよ。ほうら、幸福の子だろう、そうそうしけた面なんかできないのさ。ところがさ、あんたがなんか大事なことやってんだろ、時々落ち込んだりすんだろ、そんな時、部屋の角っこでやっちゃうんだな、クスクスッ。だから、ビシッってな。わかるよ。あんたなんかいいほうよ。こないだんかさ、おれんとこベソかいて走って来たもんなあ。そしたら、あたま、ぼこぼこタンコブだらけ。おれ言ったんだ、「おめえ、やりかえして来い。」そしたら、やつあ鼻水口んとこまで垂らしてさ、また、クスクスッ。カアーと来ちゃって手あげたら、トンかませやがった。そのくせ、相変わらず、鼻ったらしてそいつの後ろ100メートルくらいの所ついて歩ってんだぜ。あきれるね。あいつのセーターの袖鼻水でテカテカだもんな、すぐわかんだよ。でもあいつあ、時々さ、道の真ん中につたってることあるんだ。まっさおな青空あおいでさ。そんで、あい方は平気な顔でどんどんあいつをおいてけぼりにして行っちゃうんだ、さも幸福だって顔してな。当の幸せの小僧が今にも泣きそうな時にだぜ。おめえな。ってな。でも、あいつあ、もうだめなんだ、群青の天空の果ての果てを見つめて一歩も動けなくなっちゃうんだ。宇宙が突き抜けちゃって、動けねえんだよ、そしてあいつがもう泣くよってときにさ、おれが先にいっちゃうんだな。早漏よ。そんで、雨がふんだな。天の邪鬼なんて、おれ、名前悪いんだけどさ、優しい心の持ち主なのよ。ほんと。おらあ、何もできないけどね、雨ふらせることくらいでさ、あいつは神様だかんな、違うんだ。なんせ、親爺が毘沙門よ、軍神だぜ、あいつの血は。見かけで馬鹿にすんない、毛並みがいいんだよ。直感ってのはちょっとずれてんだよな、人生意志の問題よ、なんつって、おれの言うこたあ当てにならんかもしらんけどさ。おいてけぼりにしないでやってくれよな、ガキんころからの連れだかんさ。頼むよ。」

(天邪鬼さらにナルシスに近づき、よそよそしくナルシスの肩を抱いて、)

天邪鬼:「だから、泣いちゃだめだよ。いくら、お化けちゃんだって幸せになれなくっちゃいけない...醜くたって...だろ?ねえ、お嬢ちゃん。だから、さ、おらといいことしようよ。やさあしいくつまんでやっから。なあ、ほんのさきっちょだけでいいんだからさあ。」


(ナルシスは肩を触られ、はっと我に返って、天邪鬼を蹴飛ばす。天邪鬼はびっくり仰天。天邪鬼のスポットが消され、全体の照明も真っ暗になる。)

小僧の神様:「クス クス クス クスッ クス クス クス クスッ クス クス クス クスッ クス クス クス クスッ クス クス クス クスッ クス クス クス クスッ。」

(寝転がっていた天邪鬼は舞台の中央にしゃがみ、ポケットから100円ライターをだして銜えていたタバコに火を付ける。)

小僧の神様:「クス  ゴホゴホ  クスッ クス  ゴホゴホ  クスッ クス  ゴホゴホ  クスッ クス  ゴホゴホ  クスッ ゴホゴホゴホゴホゴホゴホ。」

天邪鬼:「ばーか。ちぇ、どこが幸福の神様なんだか。はやくかえんねえと、雨ふるぞ。」

(雨の音がしはじめ、小僧の神様のスポットが消える。小雨に打たれてしゃがんでいる天邪鬼のタバコの灯りがかすかに見えるなか、幕が下りる。)













散文(批評随筆小説等) 幸せの神様 Copyright m.qyi 2005-02-20 18:56:41
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