球聖
アラガイs


これは引退した松井から直接聞いた話しでもなく誰かしらのフィクションなのだが
本人が引退を決意した翌日の練習は鬱蒼とした曇り空で自分の打った打球が運わるくネットの角に当たり金魚飴のように跳ね返った打球が脇腹を直撃したらしい
多少まだ痛みが取れなかったのでベンチを温めていた自分がツーアウトから代打で送り出されものの見事にリーグ随一の速球を誇る抑えの投手からホームランを打ったことが
その日照明を覆う綿曇にかぶり付いた赤い子供のように選手全員から観客までもがまるで奇跡を眼にした異常な雰囲気に球場全体が包まれていたのは単なる偶然だろうか
その回の裏先頭打者のゴンザレスが打ち返した強い打球は見事に左中間を抜けてフェンスから跳ね返った 。
初球からいきなり飛んで来たので驚いたのか松井は跳ね返った打球を追いかけながらなんとか抑えようと腕を伸ばした瞬間ボールを前方へ蹴飛ばしてしまった。
打球は三遊間方向へ戻りながら運よく遊撃手の位置まで転がりしめたと思った遊撃手は直ぐに球を拾うとセカンドベースに到達しようとしていた選手に向けて球を放り投げたところ運わるく走り込んだ選手の身体に当たりセカンドベースから大きく逸れてしまった。
それを見た走者は三塁を目指そうと慌てて走り出すとタッチをするべく身構えていた二塁手は球の行方を完全に見失っていた。
突っ込んできたセンターから矢のような送球が三塁へ投げられたがベースの周りに捕球する選手は誰も居なかったので三塁コーチが必死に手を回すのを見たゴンザレスは打球の行方を振り返りながらも必死になって本塁へ突入するがなんとフェンスからワンバウンドで跳ね返った打球は大きく弧を描きホームベース手前で見事にキャッチャーが金魚飴を掬い取っていたところで夢が覚めたとのことだった 。






自由詩 球聖 Copyright アラガイs 2016-01-13 01:04:49
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