ハスターの僕
佐々宝砂

印を結ぶまでもなく
彼のものを召喚するまでもなく
すでに定められていたらしかった
パルプの汚泥で黒ずむ東海の海辺に生まれ落ちたとき
太陽と水星はともに宝瓶宮にあった

あるいは優しい人びととの会話よりも
暗い書物の暗い文字に愛を見出したとき
定められたのかもしれなかった

いずれにせよもはや
いかなる意味でも自由意志は失われる

海を波立てるものよ
風に乗って駈ける姿なき咆哮よ
形容詞過多な散文のあいまから
かすかに立ちのぼる究極の風の息吹よ
その冷徹にして非人間的な声で
命ずるがよい

われはハスターのしもべ
この身体は一本の矮小な送声管
灰白色のレンから吹き来る声を伝えるためにこそ
存在を許されるもの



参考文献 『魔道書ネクロノミコン』(学研)
ラヴクラフト全集(東京創元社)他
小詩集"Poem room of Arkham house"より



自由詩 ハスターの僕 Copyright 佐々宝砂 2003-11-11 22:26:39
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