ウェヌス遠景
ただのみきや
ミルフィーユ仕立て高層マンション
晴れとも曇りともつかない冬ぞらに
めりこんだ白い実体は陽炎にゆれて
二十年前には無く二百年後にも無い
むすう むすうのカゾクが
はすう はすうのヒトリが
コドクの連綿が自動ドアをくぐりエレベーターをのぼり
くだりドアをあけてしめてとおく放物線を想いえがいて
垂直に
らっかして―――――――――――――――――
限りなく引き伸ばされた
露 光 速 度
あみあげられるいのちのまゆだまにおおわれ
塔はただ塔としてむすうの空白を抱いたまま
大河と拮抗しながら
ゆ っ く り と 老 い て
とりは およぐ
そらの底をまさぐる指のすきま から
あふれ のがれる 濁る叫びの縫われた口
ありのようなじぶん 俯瞰シテイタ
サレテモイタ 塔にはくろい眼がみちて
てあたりしだいに潰せ
おまえの夜が来る前に
「しっかり打ったコンクリートは百年持ちますよ
「自然石なら数千年 ピラミッドを見てごらん
まばたきのはばたきがとらえたえものは
実体のある幻あるいは 実体のない現実
美しき理想と憧れ
ウェヌスその遠景
《ウェヌス遠景:2016年1月9日》