さよなら
もり

詩は路上で生まれる
だが詩は路上を救えない────

プレパラート上の言葉たちが見える、モノノアワレ、切断された高架橋、そこに生えた雑草の根の下で接吻、喪章をつけた兵隊蟻がパレードする毎日、「逆立ちして暮らそうかしら」と天邪鬼、ボクシンググローブの紐で首を締めたら溢れ出る涙、倍率を切り替える、すると立ったまま夢見る人のアタマん中は、鬱という漢字を迷いなく書く女学生に、奇跡としか言いようのない現在進行形の死がコンセプトの部屋に、荒川洋治の詩を朗読、赤いルビを振り振り、地球アレルギーの戦う死人と、瓜二つの鼻のない男が、昼夜交代で三日は並んだ前売り券握り締めて関係者入口を突破、肉球と爪、予告ホームランに沸く場内ではすぐさまエンドロールが流れ始める特許技術、業界用語では「タバコの焦げ跡」、先生が賞をくれる僕の詩はジェネリックよろしく、プラセボの乳糖、閉店5分前のたばねらの熱り未だ冷めず、どこからともなくやってくる一枚の葉書も燃せず、成仏、フォーラムの交点、天使、床、糠床の一人称物語、樹木と腐葉土、「だから」と「だけど」、マジックミラー、ホテルまで最短距離を歩く女、無限、∝、退色した痩身の刺青、キッチンタイマーの目覚ましが鳴り響く廊下、鏡餅工場でサンタクロースが働く国、真白いスニーカーを土砂降りにおろすきみ、ハッカ油、心の褥瘡、メチレンブルー水溶液漬けの炎、ランブルフィッシュと鏡、冷凍されたファイヤーサラマンダー、「あなたは鍋の中の絹豆腐」「私には救えない」、何故それを早く言わない?、未完の小説の主人公が啜り泣く三叉路、ウロボロスもしくは針金虫、ハンバーグかエビフライ!、あゝきみの膝枕で考える世界征服、後出しの愛してる、ハッピーアイスクリーム、逐電、人生を棒にふれるもの、嗚呼そうさ、「いつか」はもう来てる・・、9回表、利き手で投げないナックルボーラー、ここまで3-0、ライトスタンドで鼾かく神様、ヘッドロックされたケモノ道、タイムカードを押すために行く三千里、各停新宿行京王線の車内で、繊維質のない席を探し、ひたすら歩きまわったっけ、玄関からポストまでの濁流に足がつくことを知ってしまえば、草は濡れ、無は黒いのか白色かと沈思黙考、中立国の毒を額で浴び、銃口にもユーモアをと願う、ヨーグルトのような、低温火傷するような、螺旋階段を行きつ戻りつ、時差は7年、時効まであと4年、メキシコの漁師、不耕起栽培、直線は存在しない、一時的にインスピレーションの途切れた作家、嗾ける午後の屠殺場、響くサイレン、去り際、「ムダな動きをしないと私は生きていけなかった」のだと母が言い、「意味不明の意味を知りたくて、私は叫びたいと呟く」と父は言った、そこからは、「いけ好かなくなさ過ぎるんだよ」と詰られ、饂飩を結腸に詰め込まれ、そうやって嗅ぎ分けがきくようになり、食ったものが違うだけの職場と家の往路復路、ようやく私はぷーまみれのぷー、あのサティアンのような長屋の幼年期、トタン屋根の雨のララバイ、バキュームカーの残り香で友達を呼べなかった、傍らの溝で手を洗う姉弟、これで終わりって酒、恣意的に虐げる大人たち、針の筵と団子の混在する芸術、青田刈りにおびえる目端がきくボーイたちが尻の穴をヒクつかせ、精神病患者の閾値を研究するマッドサイエンティストは、デジャブの国道で、シャメブの貴女に懸賞金をかけた・・・・・、唐草模様の瘴気ただよう倉庫の扉にぶら下がる見せかけの南京錠のような存在、バイオハザード、味気ないアジと、鯵のような野次と、雑用係のアジト、買い被る包茎と、猛禽類に追われた烏帽子、スカボローフェアー、鼠蹊部、光暈、幾何級数的に増えていく指紋、「アスタラビスタ!」と「空即是色かもしれない・・」、手の甲、∴ (トライバル)、もう二度と沈まない沈没船、塵風を待つ男、玉ねぎを切りたがる女、提灯鮟鱇、消毒薬のにおいがする未来、蔓が巻かれた自動小銃、真空の風、27年前の栞が挟まれたネイキッドな昼食、『バンド・オブ・ザ・ナイト』、使い古したティーバック、自分より長生きするものばかりで囲ってしまう、革ジャンとファスナー、「約束しないって約束しよう」、磨り減った杖でめくられる頁、乳飲児、永遠の寄り道、「先生、それは無邪気な掃除機です」「タイムマシンの部品ですね」、手裏剣代わりの避妊具、煙幕としてのセブンスター、湖底の軌条の上で魚になった笛たち、およびそれらを探すハンター、時計じかけのナイフを持って、(私はボットン便所が教室だった)、インド人の双子の土木作業員がママチャリで次のアルバイト先へ向かう日没、◯で埋め尽くされたノート、水を止められた病院、初めてのキス、水道の味、鳥の街は夜の街、浮浪の準備、「なにが君の贖罪?」と「10,000時間」、アロエの夢、血で窒息する夢、「人並みの暮らしをなさい」と「ごちそうさま」、スーツにDr.マーチン、痛む尾骶骨、ブルーメッツ号、参加賞は死神の立ち位置です、ならば、あなたを、愛す、おれは、罪人を裁くのは断頭台ではなく傷を負った人々が差し出すたったひとつの毛布だと言い張るあなたを、蟻の巣にショートケーキを投下するあなたを、「ふつうの人」は今じゃほめ言葉というあなたを、オムツをはいて熟女パブへ行くようなあなたを、母性の塊のようなあなたを、血管を追いかける滑らかな肌色のカーテンのようなあなたを、光のあなたを、恍惚のあなたを、エーデルワイスか勿忘草を、9490回目の仕切り直しのあなたを、終わらせるあなたを、しぶといんだ、嘯くあなたを、時代が連れてくる独裁者としてのあなたを、冬のあなたを、ギアをひとつ押し上げる冬のあなたを、四肢のない亡命者が連れる赤いドレスのラオス人美女よりも快活なあなたを、無口なセブ島の運転手になれるあなたを、実弾のあなたを、目の前にある感覚を、ビール瓶転がる宴会場で残飯を漁るあなたを、複眼のあなたを、万華鏡(カレイドスコープ)のあなたを、柳に風で受け流すあなたを、白い粉まみれのあなたを、「ずっと」のあまりの短さに笑うあなたを、うん、百万人の愛してるよりもあなたのおはようがききたい、朝、濃い目のミルクティーで、もう背伸びなんかよせ、キスするとき以外は、天気予報の的中率が100%になったらおれは風や海や雨や雲や太陽を嫌いになってしまうから、ホットケーキの夜よ再び、ラッキーストライクの唇がもし爪のようなら、来週末の整形予約はキャンセルして、太平洋に浮かぶブイのような疑問符を見つけに行こう、ふたりで、雨の日のネンブツダイのような恋のジェット気流で、倍速の恋で、気送管の恋で、ルバーブジャムの恋で、疑似恋愛で、諸々ひっくるめて好きでいろ、面影橋で、シャンテの街で、渋谷の歩道橋で、米軍キャンプ跡のセピア色の団地で、おれのそばにいろ、旧市街の掃除夫とともに、あきらめることをあきらめないで、あきらめないことをあきらめて、あきらかに、八方美人の馬耳東風を蹴飛ばせ、松葉杖の威力は知ってる、ベストセラーになった『秘密基地の作り方』は読んでないし、ブダペストの板前は方向感覚がない、ダダと乳牛は寄り添わない、バンドウイルカの涙は見られない、総入れ歯の虎は変わらない、とんとんと混沌、モグラ専用車両がたんごとん、キッシュとミルク、退職祝いの爪切り、ベビーフェイスな壊し屋、譫言のような「Never give up」、どんなタイミングで出会っても愛し合えるふたりじゃないか、箸で食うライスカレー、スプーンで食うスパゲッティ、精神科病棟のフォーク、「我が人生 九牛の一毛 也」、涙の破壊力を知っているだろう?、餓死しない女たちの、お蔵入りしたマリブミルク、世界一美しい回文、玄孫を救うかもしれない詩集、小樽のキャンドルショップ、寝覚月、後日郵送のイミグラン、セルジュ・ゲンスブール、一日たった一粒!、剥ぎ取られた病衣、キップレザーの黒と陰茎の黒のコントラスト、気楽に財布にしまっておけるクライマックス、およびそのテーマ曲、大トリにもかかわらずバケツの中、毛唐どもの臭気に過敏な反応を示す大立者、ブルージーンズ、無表情と無気力と無精卵、想像妊娠に関する裁判、積み上げられた南瓜の資料、狂気準備集合罪、コピーのコピーのコピー、「わからない」、ブッチとキッドのようなピンスナップ、浅葱色の寓意、虚偽とホッチキスと御意、そこに参加した人たちと鯖江、ホーチミン、プノンペン、ラッカに用がある外側の人間、心のマントル、0.01ミリの薄皮饅頭、ピューリタン革命、反核の歌、増減のないチャージ額、マンゴーの茎で縛られた五線譜、沢山の悪夢、あてなきドライブ、矛のようなO2、盾のようなCO2、排ガス、社長のタール1mm、インスタントな安心、オアシスと同じくらいやわらかなタイマイの甲羅、あきれたべっ甲細工、気持ちのインポテンツ、あきらめた魂、夜の一瞬に咲く思考の花、その恩赦、運命の場所の座標、極東を目指す漂泊者、ゴールテープを柱に結わえて爪を噛む最西端の王子、悪質な睡眠、飛田新地の朝、泣く、あなたのために、ナクノ、スキ、マエノメリニ、タオレ・・、ヤーガン族を弔え、イカぽっぽ、抱きしめ、折れるほど、そうして、殺す、30までに、西日とともに、東向きの窓の欠伸、顎関節症の鯨の背中で、おれは、銛、おれは、春先の蕾を、ベランダの柵の蛹を、突く、ご婦人のカシミヤのセーターを突く、出張理髪師の迷彩柄のパンタロンを突く、少年院を、火葬場を、この集合住宅を、おれは突く、秋風を、生きた魚より高価なルアーを、人狼を、マタドールを、賛辞を、悪評を、自然な欠点と不自然な機会を、蒲鉾工場のカマトトを、マラケシュの治験コーディネーターを、中国のコールセンターの元締を、セプトクルールのように鮮やかな色で、ブラックボックス代わりのtattooを入れて、突く、淫売を突く、ライオンがいる客間も、退屈も、あまりにも退屈な退屈も、つまりは厭世も、臆病も、あまりにも臆病な修道
・・・
おれは故郷を想う
そこに置き去りにした愛すべき人々を想う
2階のサービスカウンターで自分の名をアナウンスするひとりぼっちの女をぼんやりと見ながら、微睡みながら、余生、それは逆再生、

名前を、忘れてしまうまでの────


自由詩 さよなら Copyright もり 2016-01-07 00:40:10
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