小指
あおい満月

(ダレカダレカ解放シテクレ、
コノアツクルシイホドノ抱擁カラ)

私は時々、
私を抱きしめている、
この腕を暑苦しく思う。
私を抱きしめている私の腕を。
この腕には沢山の鍵が掛けられている。
私の感情の奥にひそむ、
あらゆる悪を弾き飛ばす、
この腕の鍵を。

いっそ、
悪に染まれたら、
しあわせかもしれない。
けれど、
私のなかの、
十字架がそれを赦さない。
この世界の、
あらゆる悪を悉く叩き潰せ。

声が蝉になって響き渡る。
大丈夫、このフロアには
聴こえていない。
正しくあるべき、
善であるべき、
声がはっきりと肉体を現す。

私にしか見えない、
声の肉体は、
私の喉に入り込み、
声帯を揺らす。
四角いこのフロアのなかには、
ただ、私と、
ある程度の距離を保ちながら
走る仲間がいるだけなのに、
私は何かが言いたくて、
ぐつぐつとわらいを噛み砕く。
地の底からマグマのように
湧いてくる理由のないわらい。

これは何なのか。
私が私にブレーキを掛けている
ストレスか。

ぐつぐつぐつぐつ、
鍋が煮える。
瞳を輝かせた肉たちは、
鍋のなかで糸になる。
その糸を繋ぐのは、
長い間待ちわびた、
小さな小指。
小指はくわえている。
私を喰らい続けた
小さな刃を。



自由詩 小指 Copyright あおい満月 2016-01-06 23:47:19
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