証拠なんかなくてごちそうさま
ホロウ・シカエルボク





白昼バランスでも崩したのかすっ転んで縁石で頭を打って死んでいる老人が漏らしてスラックスに滲んでいる糞を一匹の野良猫が執拗に舐めていてその傍を通り過ぎる子供用の鉛筆みたいな服装をした若い女がひと言ウケると呟いてその女のサンダルに貼られている一枚のプリクラはよく見るとあの狭いブースの中で突っ込まれている記念写真でいったいこの娘には外で靴を脱ぐ機会など無いのだろうかそれともあったところで意に介さないのだろうかいやだけれどそんな機会があったところでこの娘の履いている固いパンみたいなサンダルに興味を示すものなど誰も居ないのかもしれないそもそも他人の靴などをまじまじと見る人間などそんなには居ないものだごく一部を除いてなんて考えていると一瞬倒れていた老人の目が見開かれたような気がしてだけれどそれは気のせいかもしれないと思ったがなぜか立ち去りがたく近くの自動販売機で飲みたくも無い飲物を買ってゆっくりと飲みながら事の次第をしばらくの間眺めていたら偽善的な妙齢の女性がやって来てあれこれと世話をやき始めいままで遠慮していた連中が一気に集まってきて倒れている老人の姿が見えなくなってそれと同時に妙に薄い影が人混みの中からすっと這い出しついいましがた子供用の鉛筆みたいな服装の娘が歩いて行った方向へゆっくりと歩いて行ったので慌てて飲物を飲み干して後を追ったら娘の家の近くらしい空地でその影は背後から娘をひっ捕まえ物凄い力で有無を言わさず犯し始めたこれはいったいどうすればいいだろうと思ったが正直に言って同情出来ない要素は多分にあったしこちとらそれほど常識的な人間でもなくそのまま事態を見守ることにしてどうやら娘にはその影は見えていないらしく始めこそ叫んだものの怖気をなしてかちばったままされるがままになっていたのでちょっとウケると思ってなおかつ少しムラムラと来たりもしたがその場を離れるわけにもいかないので我慢してその影が射精するまで眺めていたさてそれからどうするのかなと思っていたら影はそのままぐったりした娘の腹に齧りついて食い始め娘はもの凄い悲鳴をあげてバタバタしたがどうにもならずこれほどの大騒ぎなのにひとばらいでも行われているかのように誰も寄り付かずもしかしたらもともとそういう通りなのかもしれないけれど真昼間だというのになんという静けさだろうかとおかげで影が娘の内臓を屠る音まではっきりと聞こえてきて娘はまだ口の中でぐじゃぐじゃ言っていたがじきになにも言えなくなって涙に濡れた目を見開いたままにしてああここは助けてあげてもよかったなんてその時初めて思ったが助けてあげられる気もしなかったがさすがに可哀想だなと思っていると娘を屠るうちに次第に影は実体を持ち始めそれは案の定さっき道で倒れて糞を漏らしていたあの老人で嬉々として食い続けあー大食漢だなーと思っているうちあっという間に食い尽くしてしまったそして満足げに立ち上がり娘の首を持ち上げてでかい声でこう叱責した


「そんなもんを靴に貼るなばかもんが!」


「おまえが言うな!」と思わずツッコンでしまい老人がこちらをみてにやりと笑いゆっくりと歩いてくる恥しながらすっかり縮み上がってしまいまったく動けずに居ると老人は血塗れの生臭い手をポンと肩に置いて「いいツッコミするやんけ」と言ってフッと消えたもんだからそこに残されたのは血塗れのほとんど食い尽くされた娘の死体と肩が血塗れのジミヘンのシャツを着た自分だけでこれはさすがに駄目だろうとシャツを脱いでジーンズの尻に突っ込み凄くテンションが上がっているときの伊藤英明の真似をしながらなんとかごまかして家に帰ると数時間後に警察がやって来て連行されたがシャツの血は疑われたがもちろんのこと証拠などなにもあるわけもなく夜中に帰ってきて冷蔵庫にあるもので簡単な夕食を作って食べようやく一息ついたところ




ごちそうさま




自由詩 証拠なんかなくてごちそうさま Copyright ホロウ・シカエルボク 2016-01-03 10:28:40
notebook Home 戻る  過去 未来