冬の空ぼど気まぐれな奴はいない
ただのみきや

かわいた裸につめたいドレス
あなたの肢体の隙間を縫って
透けて見える 十二月の行進

こっそり口を開いた嵐だ
札束を数えるように
耳を裂く静寂を値踏みして

時間が止まって感じるなら
とっくに死んでいるのかもしれない
冬の青すぎる眩暈に引力を手放して
空へ 四散して往く 
とり残された苦痛が比喩を探して這いまわる

大勢の買い物客がひしめき合う
人と物と金が素早く動き回り
編みあげられる暮らしの後ろ姿が
過去へと奉納される

彼方から微かに炸裂音が
彼方へは微かに歓喜の歌が
聞えている
重なり合う現実と幻影は
時間で役割を交換する
人類を八つ裂きにしたい
ここへ 刃を突き立てて

刷新された大地に足を下ろす
波立つ恐れを相殺する
        もう一つの波

一時停止せよ 一方通行だ Uターン禁止

頭の中を棘の生えた標識が
サロメよりも腰をくねらせて
律法学者より厳格に規定する

雪原の足跡
立ち止まればそこで
    行き止まり

わたしは
俯瞰する何者かによる即興

     偶然という
ちぐはぐなピエロの衣装
天井の低い時間で燃えている

笑い顔あるいは無表情の
美しく素体化された者たち
影を生む光と影を殺す光に取り囲まれて
輪郭を失って往く水彩の花よ

句読点と有頂天
似ていても全く異なるもの
だけど異なる者同士が隣り合うことも
珍しいことではない
クリスマスの夜に大騒ぎしている
その隣の部屋で
首を吊る、男の、独 白。

エゾクロテンが
白紙を横切って――

たぶんわたしがこの目で
鳥たちの食卓を
十二月の文脈を
隠者と狂者の暮らしぶりを
二重三重の乱れたビジョンで
切りつける
ひたすらにいたずらに

人は神の視線を避けた
樹木の衣を借りてまで
だが樹木は惜しげもなく脱ぎ捨てる
裸婦たちを視線はリスのように辿り
一本の若木に恋をする

わたしは言葉を創らない
言葉がわたしを創っている

天候のように
変わりやすくて変えられない
わたしは糸のほつれた服
穴の開いた靴
古い本に挟まれていた写真
2015年12月へ溶け出した誰かの過去

鳩が喰われたように羽毛は舞い
雪はまぶたに 
跪拝をうながす

薄紅色の窒息
地下水の囁き
――ふいに焼鏝が落ちてくる

広がる亀裂に真っ赤な口紅
恥じ入ることもなく
冬の胸元に滑り込む体温計
図りながらも甘えている

そうしてオーブンで焼かれた心臓
六角形の苦いクッキーを密売する
代金も受け取らず布教する
盲人の手を引く盲人
そう 口先案内人



        《冬の空ほど気まぐれな奴はいない:2015年12月30日》









自由詩 冬の空ぼど気まぐれな奴はいない Copyright ただのみきや 2015-12-30 23:03:44
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