きつね
umineko

国道から路地ひとつ入ったその商店街はかなり古くからあって、そこそこ人通りも
ある。だがしかし交通の便が今ひとつ。圧倒的集客を誇れるようなキーテナントも
なく、それゆえだんだん寂しいことになってしまうそんな店たち。

その商店街の西の端は飲食店のテナントなんだけど、とにかく店が定着しない。串
揚げの店の前は確か釜揚げうどん、その前はスポーツバーでその前は和風居酒屋で
あったような。

店が変わるたびに内装業者がそれ風に作り替える。強い態度で見守るご夫婦は、お
そらく店の新しいオーナーだろう。私はその姿に敬意を払い、だけどそのまま不安
になる。また繰り返されるのではないだろうか。そして、その危惧が消えたことは
ない。

誰かの強い意志や態度が。形になり消えていく。
なぐさめる人。肩を抱く人。そして。
ほくそ笑む人。

私は。
こんなに人を信じていて、こんなに裏切られたり捨てられたりしてもそれでも信じ
ているのだけれど、でも、それはずいぶんまだらで。

おびえている。
うかがっている。

あなたは。絶対無垢ですか。
そんなことはないだろう。私は違うよ。
私はずるいよ。私はずるい。私は逃げ出す。つらかったら逃げてしまう。

追いかけないようにしています。
追いかけるのはつらいから。

夕暮れの街を。
歩くのが私は好きだ。
空と街が混沌として、ないまぜになっていく。そのわずかなあわいが、好き。

あなたと私が。ないまぜになって、境界線が消えていく。そんな瞬間があったかな
あ。わかんないや。くっついてたら、それはあったかくて好きなんだけど、もたも
たのクリームみたいになって眠るのも好きだったけど、もう全部ぜんぶ遠い世界だ。

川沿いの道を。私は歩く。
いいことあるかなあ。わかんない。

私は、いないよ。
ここにはいない。

こんなところに私はいない。
 
 


自由詩 きつね Copyright umineko 2015-12-30 10:00:47
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