それは抽象性以上の具体性を持たない(そしてしばらくの間循環をやめない
ホロウ・シカエルボク
)
夜更けに
ロック・ミュージック喰らい
寝具の中でサナギになる
血流はゆっくりと、くたばらない程度に
脳味噌はないものを見つめながら
まどろみをクルージングしている
いつも影ながら解き放たれる
そのときに拾った言葉を知るには
綴ることを忘れないでいること
そうすることでしか維持出来ない
インプロヴィゼイションを研ぎ澄ませること
重要なものなんてそんなにはない
取るに足らないものの為に躍起になっていると
魂は熱を伝導しなくなる
生身の機関のようなものになって
日常は日付以上の意味を持たなくなる
最後は捨てられた茶碗のようになってお終いだ
本当に見たいものを見ようとする瞬間には
その裏にあるものまで知ろうとしているものだ
目に映るものなんて入口に過ぎない
鍾乳洞を歩くように項目を辿らなければ
それがいったいなんなのかなんて決して知ることは出来ない
即断の皮を一枚捲れば愚直が隠れているものさ
真夜中になるといつも
どんな音も聞こえない瞬間がある
車の流れが途切れ、人の流れが途切れ
心が機能のいっさいを止める、そんな瞬間が
そんなとき俺はサイレントに
侵食されてただの体液になる
これはどんなことについても話そうとはしていない
これはどんな意味も含んでいないようなものではない
これはどんな示唆にも満ちてはいない、だけど
これはどんな示唆にも当てはめて動かすことは可能である
血液や髄液にかたちが存在しないのと同じように
モデルのある人生に違和感を覚えるのと同じように
眠りの中に溶け込んでいくとき
生まれたときのことを思い出している
それは明確なヴィジョンを持たないものだけれど
手にしているという感触だけはしっかりと残していく
覚えていることだけが記憶ではない
そんなものと無縁な場所に刻まれているものが必ずある
無意識になったときが自分自身だ
聴いたことのない歌が絶対的なメロディーだ
綴ったことのない詩はすべてを語っている
読んだことのない本にはなにもかもが書かれている
それが記憶とは無縁の場所に刻まれているから
俺みたいな連中がそれらを追いかけている―夢中になって
意味を追うよりもただただ喰らっていくことだ
知ることになんてたいした意味はない
本当は誰もが気付いていなければならないことさ
ひとたび喰らいついて噛み千切って飲み込めば腸内から肉体に吸収される
顎が疲れるほど噛み砕いた瞬間に血液の温度は変わっているのさ
あとはそれが循環するのを待っていればいいだけだ
なあ、俺はときどきこんなふうに考えるんだ
ある種の詩は血小板のいくつかが話したことなんじゃないかって
白血球とか赤血球でも構わない
とにかくそいつらのうちの誰か、ひどくお喋りな誰かが
「さあ、おまえたち聞いてくれ」と盛大に声をあげているんじゃないかって
だって俺がこれまでに書いたものの中には
いつのまにかそこに書いてあったようなものがいくつもあるからね
俺は人生を確信しない
俺は運命を知ろうとしない
俺は自分について知る意味を持たない
俺は自分自身に向かうべき指針を持たない
俺はいつでもしなければならないものを持たない
そのとき生まれたものに従っていくだけだ
俺の血液は常にポエジーを探している
俺の身体中をくまなく這い回って
空がぶん回されて再び太陽がのんびりと現れるとき
それを眩しいと感じるのは目覚めることが出来たからだと知っているせいだろう
眠りの中に溶け込んでいくとき
生まれたときのことを思い出しているせいさ
仕事でも、遊びでも、なんでも構わない
どこかに出かける用事があって
寝惚け眼に水を浴びせて支度を済ませて家を出たときに
踏み出した爪先が体重を感じる
そのときに感じる喜びで血液は喚起の声をあげるだろう
生まれたときのことを思い出しているせいさ