罪業の果て
レタス
紅蓮の業火が背中を焼き
腹は氷雪の海に閉じ込められている
隻眼の瞳は目指す方角を失い
同じ海域をグルグル周り
砂浜にたどり着くことは無かった
父母の名前を呼ぼうにも
卵から生まれたぼくは
声を失うばかりで
孤独な航海を続けている
広大な海に漂うクラゲだった
或る朝
天敵のマンボウに襲われ
拙い足をすべて食いちぎられてしまった
いまはもう波間に浮いているだけの存在なのだ
トビウオはとても賢くて
陸地はあっちに在るよと教えてくれるが
ぼくは泳ぐすべもない
ヒマラヤの麓の賢者を訪ねてごらん
だけど、誰にもその名前を教えてはいけないよ
彼らは賢者の名前をぼくだけに教えて
自由な空を飛び去った
でもぼくには泳ぐ力は無い
白い山脈が見えた刹那
賢者の手のひらが差し伸べられ
香木の船を与えられ
灼熱地獄と氷雪地獄から
生まれてはじめて解放された
賢者の名前は秘密にするしかない