罪業の果て
レタス

紅蓮の業火が背中を焼き
腹は氷雪の海に閉じ込められている
隻眼の瞳は目指す方角を失い
同じ海域をグルグル周り
砂浜にたどり着くことは無かった
父母の名前を呼ぼうにも
卵から生まれたぼくは
声を失うばかりで
孤独な航海を続けている

広大な海に漂うクラゲだった

或る朝
天敵のマンボウに襲われ
拙い足をすべて食いちぎられてしまった
いまはもう波間に浮いているだけの存在なのだ

トビウオはとても賢くて
陸地はあっちに在るよと教えてくれるが
ぼくは泳ぐすべもない
ヒマラヤの麓の賢者を訪ねてごらん
だけど、誰にもその名前を教えてはいけないよ
彼らは賢者の名前をぼくだけに教えて
自由な空を飛び去った

でもぼくには泳ぐ力は無い

白い山脈が見えた刹那

賢者の手のひらが差し伸べられ
香木の船を与えられ

灼熱地獄と氷雪地獄から
生まれてはじめて解放された

賢者の名前は秘密にするしかない


自由詩 罪業の果て Copyright レタス 2015-12-24 18:52:12
notebook Home