空き樽は音が高い
涙(ルイ)

盗人に追い銭とかってさらに損したなんて云ってるけど
追い銭をしたのはあなたの方でしょう
自分がしたことをまるでなかったことのようにするなんて
盗人よりもふてぶてしいわよ あなた


来年のことを言うと鬼が笑うのなら
さらに次の年のことを言えばもっと笑うのかしら
5年も先のことを話したなら きっと大爆笑に違いないわね
だけど調子にのっちゃだめよ
そんな懐の深い鬼だってさすがに
10年も先のことを話せば
堪忍袋の緒が切れて 怒り出すに決まってるんだから


阿弥陀も銭で光る
ご利益なんてものさえも金次第だってさ
5円でご縁に恵まれます
10円投げれば 縁遠いなんて
そんなのはただの 笑えない駄洒落でしかないんだってことが
これでよくわかったでしょ


類は友を呼ぶというけれど
私に友がないのはおそらく
私と似たような人間がいないということなのでしょう
だから世の中はこんなにも平和なのでしょう


明るけりゃ月夜だと思うなんて
遠くで自分の家が燃えてるのにも気が付かないで
今夜はいい月だ なんて
呑気も大概になさいよ おまえさん


赤子の手をひねるなんて
それはあきらかに虐待です
いますぐやめなければ
警察に通報しますよ


薊の花もひと盛り
どんな花にも花盛りというのがあるという
わたしの花盛りはいつやってくるのでしょう
盛りのないまま朽ち果てていくだけなのでしょうか
哀しや哀し


どうしてこんな濡れた衣を着なければならないのでしょう
一体わたしが何をしたというのですか
あの人はきっとなにか勘違いしているんだと思うわ
あれはわたしがやったんじゃないの
わたしはなにもやっちゃいないのに
それを聞きいれてくれる耳をもう
あの人は持ち合わせてはいないのね
濡れた衣は肌に張り付いて なんて気持ち悪いったらないわ


離れてしまったものほど よく見えることはないわ
あいつはいい奴だった あの子はやさしくてよかったって
一緒にいるときには やれあそこはダメだのここがイヤだの云ってたくせに
逃がした魚は大きいってか
いまさら気づいたって もう遅いんだってば


向こうが先にケンカをふっかけてきたから
買ってやっただけのことですよ
少々高くはつきましたけどね


物腰やわらかで優しい人だから断ることができないだろうって
勝手に決めつけないでくれますか
わたしにだって決める権利くらいあるはずです


右を向いても左を見ても
前を向いても後ろを見ても
味方なんてひとりもいやしませんでした
親だろうと兄弟姉妹だろうと
油断はできませんでした
いつ何時 攻撃されるかわかりませんでした
ずっとひとりでした
ひとりでずっと 緊張していました
だからいまでも 他人が苦手です
やさしさに怯えてしまうのです
何かあるに違いないと
ついつい勘繰ってばかりなのです
すみません ごめんなさい
あなたのせいじゃないんです
あなたが悪いわけじゃ
決して決してないのです
私の中のわたしが どうしてもそれを受け入れられないのです
拒絶してしまうのです
すみません
本当に あいすみません


ひとつ疑いだすと あれもこれも何もかも怪しく思えてくる
あの人もこの人もみんな人に非ず
みんな鬼の形相をしている
しているように見える私が
一番 人に非ず


一寸先から五里もその先も 真っ白な霧闇の中
どう生きていったらいいのさえも まるで見当がつかず
手探りで一歩一歩 模索しながら歩いていくしかない
そんな人生を 私は生きているのです

生きていくのです




自由詩 空き樽は音が高い Copyright 涙(ルイ) 2015-12-21 22:40:06
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