ちぎり
あおい満月

誰がさまようというのだろう。
この名もない路地を。
名もない路地には、
ひと影はなく
だから名もない路地と
なったのであろうが、
名もない路地には、
人影は確かにあった。
その人影は、
他の誰にも知られることはなかった。

*

古びた街角の路地裏に、
血のついた足跡が
昔あったという。
今でもその街角に住む住人に
聴いてみると、
昔、
二人の侍が、
互いの肩を切りあったという。
来世でまた出逢った時に、
互いを忘れぬように。

**

年の瀬のネオンが煌めく繁華街で
ある男に出くわした。
俺はその男を知らなかった。
けれど何故だかどこか懐かしい
血の匂いを感じた。
その男と、
行きつけのバーに入った。
俺の肩には、
生まれつきなのか、
三日月が疾走したような傷が、
右肩にあるのだ。
何杯かの酒に酔った俺は、
ある男にその話をした。
すると偶然にも男は自分の肩を
俺に見せた。左肩だった。
その時俺の脳裏には、
ある街角の記憶が、
漣になって思い出された。


***

二人の侍が、
ある古びた街角に立っていた。
二人にはいずれはどちらかが
死ぬ運命にあった。
二人は互いに孤独だった。
けれど二人の間には、
ぬかりない愛のような
強い友情があった。
だから二人は来世への約束として、
互いの肩を切りあったのだ。

****

酩酊のなかで俺は、
熱いシャワーで目が覚めた。
身体をナイロンでなぞって
手にしたスマートフォンには
さっきのバーで出会ったあの男からの
メールがあった。
男からは、
ある場所に行かないかという
メールだった。

*****

男の車で、
思ったよりも早く
俺たちは目的の場所についた。
漣がなるその岸辺に、
それはあった。
そこにはふたつの石碑があった。
その石碑の前に立った男が、
俺に告げた。

俺はお前を、
ずっと探していたと。
ずっとずっと、
探していたと。

その時俺の脳裏には、
ただ赤い何かが、
火花のようにちっていた。


自由詩 ちぎり Copyright あおい満月 2015-12-19 23:20:25
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