踏み荒らし
高原漣

踏み荒らし


老いた敗残兵の話を聞いてくれ

君よ

剣の川を泳いで渡れるか

しょせん一発の弾丸

マグネシウムのように命を燃やし

かっ と光っては消える若さよ

おびただしい死が雪崩をうって転がりこむ惑乱の巷で

明滅する友たち

ああ、また心臓が動くをやめた

また、息をするのをあきらめた者がいる

マゼランからシリウスまで渡り歩いたが

どこまで行ってもわれわれは螺子でしかなかった

か黒い水たまりに浮かぶ光球が

またたくまに後方へ流れ飛ぶ

ふいに舷窓は全くの灰色となり

艦は星雲の波間にしずむ

次に目覚めた時はもう

見なれた死神の

満面の笑顔がそこにあった

錆の浮いた道具に

弾をこめたあとはもう

吹きすさぶ風と同じだった

消灯!消灯!

灯火は消えていく

赤、青、黄色のランタンが

黒い水たまりの上で踊っていた

一つまた一つと大きな銛で刺し貫かれ

狂った花火に変わっていく

われわれは交響曲のなかを

音もなく走っていった

ひとだまを踏み荒らしに

ただ走っていった


自由詩 踏み荒らし Copyright 高原漣 2015-12-17 00:56:11
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