在る ということ
たけし
スタッ スタッ スタッ
大きな白いイキモノが用水路を移動して来る。
僕は思わず沿いの遊歩道に立ち止まる。
スタッ スタッ スタッ
水かさは30㎝程、幅約1mの用水路を、そのイキモノは何か毅然とした様子で進んで来る。
僕は遮光サングラスを外し瞼をこじ開ける。
スタッ スタッ スタッ
白鷺だ。威風堂々、真っすぐ前を見やり、黒く細長い二本の脚を流れる水底に交互に踏み入れるーゆっくり リズミカルに 確信を持って。
僕はいつも川辺で遠目にしか見たことがなかったから、細く優雅なイメージしか記憶になかった。
スタッ スタッ スタッ
イメージを越えたその大きな肢体は少しふっくらとし、脚の付け根から少し上の羽毛が黒く汚れ毛羽立っている。
ここら辺の観光名物としてのイメージが僕の中で一気に壊され、その一つの個体としての存在感が起立スル。
スタッ スタッ スタッ
臆病で近付くとすぐに飛び去るハズのそのイキモノが、今は僕のことなどまるで見向きもせず、すぐ隣を平然と通り過ぎていく。
その黒々と細長く尖った艶やかな嘴が時々、左、右と素早く振られ、その光景そのものに僕は圧倒される。
スタッ スタッ スタッ
静かに踏み込む水音を響かせ、そのイキモノ、いや存在が今や着実に遠去っていく。
凝視スル僕も用水路の向こうの街道を行き交う車も、それら一つの風景から全く独立して。
立ち尽くす僕が見送ってしばらく、その存在は羽をサッと広げ一気に飛び立った。
去っていった彼の後に、独りの私が在った。