野良のさよなら
宣井龍人

野良が挨拶しているよ

疲れた毛を励まして
露出した皮膚を隠し
道の真ん中を
人々の営みの中を
堂々と
野生の威厳を振り撒き
声ひとつたてず
冷たい日差しを歩いているよ

こそこそと視線を伺い
自転車の陰や薄汚れた溝を
こそこそと
速足だった野良が
今日は歩いているよ

お世話になりました
長い間有難う

野良が挨拶しているよ

大地を強く踏んでいる
十字路を右に消えていく
精一杯振る立てた尻尾

さようなら
さようなら

野良が挨拶しているよ
もう僕は前が見えなかったよ


自由詩 野良のさよなら Copyright 宣井龍人 2015-12-12 10:09:28
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