レミングス
TAT
レミングスは海を目指す
ぞろぞろと一列に並んで
崖から海に飛び込む順番を待ってる
なんと奇妙な生態だろうか
ぼくらは一列に並んでポップコーンを買う行列を作ってる
ぼくらは一列に並んで新規公開株を売ってもらう抽選権を欲しがってる
ぼくらは一列に並んでレジを打ってもらう順番を待ってる
ぼくらは一列に並んで新型のiPhoneを手に入れる
ぼくらは一列に並んで殺される順番を待ってる
ぼくらは一列に並んで移民の登録窓口が開くのを待ってる
ぼくらは一列に並んで単体女優の顔に向かって精子を射精する
ぼくらは一列に並んでマイナンバーの交付を受ける
ぼくらは一列に並んで大戦に送り出される
ぼくらは一列に並んで分譲マンションのはずれくじを引く
ぼくらは一列に並んでATMからお金をおろす
ぼくらは一列に並んで自分の現代詩が誰かに評価されるのを待ってる
ぼくらは一列に並んでレクサスのローンを組む
ぼくらは一列に並んで神経科のカウンセリングを受ける
ぼくらは一列に並んで帰って来る子供を門の外で待つ
ぼくらは一列に並んで住民税を納付する
ぼくらは一列に並んで巡回するピカソの原画を拝む
ぼくらは一列に並んでテーブル席の順番を待ってる
ぼくらは一列に並んで霊園の空きを待ってる
寓話のような人生を愛せないなら
別に愛さなくても差し支えないんだよと前の男が教えてくれた
それをそのまま後ろの女に教えてやる
人生を愛さなくてもいいらしいよと
女はそれを更に後ろの子供に耳打ちする
人生を愛するなと
月の夜も星の夜も闇の夜も
時計の針は進むのを止めない
それは何故かというと
ぼくらが時計を発明したからだ