あおい満月

黒く透明な魔物にとりつかれた指は、
もう止まらない、
もうもどらない、
指が進む先は、
まっすぐ なようでかなり
曲がりくねっている。
指には耳がある。
かなりたくさんの耳だ。
無数の耳から聴こえてくる音は、
善悪の天秤を狂 わすほ ど強烈で、
私の顔はどんどん立てになる。

*

嘘つきな液体を喉に流し込んだ。
それだけで生まれたままの貝になった。
貝には進むべき視線という足がない。
だらだらと水を流しながら、
思い出したように笑ってみる。
摘ままれそうな黒い左手に、
身を翻して、
流れていくお決まりな
タラップをみている。

**

変動を持たず繰り返す日常に
意味があるのか。
死んだもの、
死にかけたものを、
針の先で抉じ開ける動作そのものに
快楽はひそむと信じている。
まだあたたかだった、
指先をなぞる歴史が
モノクロに胸を掠める。
世界が灰になる前の肩を
握ってくれたのは
嗄れた血管の浮き出る諸手。
今も繋がれている、
微かに見える稜線を手繰りながら、
私は手を合わせる。
あなたに、
今度は迷いなく出逢えますように。


自由詩Copyright あおい満月 2015-12-10 22:19:58
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