歌が聞えてくる
ただのみきや

雪のような歌がある
静かにふってきて
いつのまにか景色を一変する
真新しい一面の白紙を前に
こころ躍らせる者
昨日を忘れてしまい
ペンのように立ち尽くす者
雪のような歌がある


太陽のような歌がある
閉ざされた湖は微笑みを取り戻し
魚は躍り飛沫を上げる
草花の庵
風のテーブル
誰かの素足を見つめている
ただ受け取っていたい
太陽のような歌がある


扉の隙間から暗い明かりが漏れている
そんな歌がある
すすり泣く旋律
開いた傷口を激しくこすりつける詞
背けても耳にまといつく
悲色の糸が心を縫い付け
いつしか心中したくもなる
厄介だけど憎みきれない そんな歌が


ひとりきりで歌う歌がある
生と死
希望と絶望が混じり合った
見えないひとつの道が敷かれて往く
原初の傷から地の巡りの果てへ
すべてはアカの他人
狂おしくも愛すべき他人
わたしが歌う歌がある


まだ歌ったことのない歌がある
まだ聞いたことのない歌が
誰でも耳にすればそれが
それであるとわかるのだ
死に臨んで尚も歌は生まれてくる
忘我の舟を漕ぐ鼻歌 
夢の散歩道の口笛
誰もが懐かしむ未完の歌がある




              《歌が聞えてくる:2015年12月5日》







自由詩 歌が聞えてくる Copyright ただのみきや 2015-12-05 21:04:46
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