鳥
あおい満月
ここに、
確かにあなたはいた。
そのとなりに、
確かに私はいた。
ふたりはずっとこの町にいた。
けれども今では、
誰もあなたを知らないという。
私たちはこの町の片隅の
ちいさなマンションで
寄り添いながら眠った。
隣の独り身のおじいさんや、
同志のような仲になった
近所のお母さんたちに
野菜や缶詰めをもらい
鍋料理にして食べあったりした。
怖いものなど何もなかったあの頃。
力などなくても、
思いやる心さえあれば、
生きていけると信じていたあの頃。
今は、
あなたはいない。
私のことは皆知っているが
あなたのことを訪ねると
皆不思議な顔をする。
この町から、
都会へ帰るとき、
振り返る山間の家々から
あなたが見ているような気がして、
私はただ祈る。
あなたは鳥だったから
本当のあなたの空を
みつけられるように。
空を見上げれば、
あなたの声が聴こえる。