待機
たけし

海がやって来る海が迫って来る
唸る荒波次から次に
無数の白い波頭を荒れ狂わせ
海がやって来る海が迫って来る



モスグリーンの壁を引っ掻き掻き毟り殴りつけ
肉の苦痛を激痛を発散させていたら
いつの間にか壁一面が色褪せて
黒ずんだ突起やら裂け目やら窪みやらの痕跡残り
取り返しのつかない憎悪と怒りを孕んで歪む醜悪
はぁはぁはぁはぁ荒い息
付着した流血が赤茶に変色し凝固する頃
上方から巨大な力、伸び落ちて来る
垂直に



荒涼としたこの界に
不可視、太く細く灰の帯、絶えず膨張収縮変形しながらクネリ伸び
突き刺さる、ウネル海原に
(至る処に広がる渦また渦)
荒れ狂う波頭を抑え付けまた鼓舞し
流出した天の力は無限奔放
粗暴に緻密に 
停滞の澱みを破壊し、原初の無垢を造形スル
(無数の白い波頭 砕け散っては蒼い海原に鎮まり同化し)
天秤が振られたのだ
右から左に 左から右に
新たに真ん中で均衡し静止するマデ



海は動かない海はやって来ない
沈黙の波、幾筋もの流線刻み込み
海は動かない海はやって来ない



私は白い砂浜に倒れたまま、
自らの人生の記憶の大パノラマが展開されるのを呆然と観ていた。

その後、
明け始めた静かな海を覆う淡いピンクの靄の中
無数の天使たちが舞い飛び
いつしか私は煌めく鋭利なガラスの断片となって
内も外も区別のつかない光景を
透明に澄んで写し出していた。













ー共鳴絵画/キーファー《流出》


自由詩 待機 Copyright たけし 2015-12-02 15:34:25
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