待機
たけし
海がやって来る海が迫って来る
唸る荒波次から次に
無数の白い波頭を荒れ狂わせ
海がやって来る海が迫って来る
〇
モスグリーンの壁を引っ掻き掻き毟り殴りつけ
肉の苦痛を激痛を発散させていたら
いつの間にか壁一面が色褪せて
黒ずんだ突起やら裂け目やら窪みやらの痕跡残り
取り返しのつかない憎悪と怒りを孕んで歪む醜悪
はぁはぁはぁはぁ荒い息
付着した流血が赤茶に変色し凝固する頃
上方から巨大な力、伸び落ちて来る
垂直に
▼
荒涼としたこの界に
不可視、太く細く灰の帯、絶えず膨張収縮変形しながらクネリ伸び
突き刺さる、ウネル海原に
(至る処に広がる渦また渦)
荒れ狂う波頭を抑え付けまた鼓舞し
流出した天の力は無限奔放
粗暴に緻密に
停滞の澱みを破壊し、原初の無垢を造形スル
(無数の白い波頭 砕け散っては蒼い海原に鎮まり同化し)
天秤が振られたのだ
右から左に 左から右に
新たに真ん中で均衡し静止するマデ
▲
海は動かない海はやって来ない
沈黙の波、幾筋もの流線刻み込み
海は動かない海はやって来ない
〇
私は白い砂浜に倒れたまま、
自らの人生の記憶の大パノラマが展開されるのを呆然と観ていた。
その後、
明け始めた静かな海を覆う淡いピンクの靄の中
無数の天使たちが舞い飛び
いつしか私は煌めく鋭利なガラスの断片となって
内も外も区別のつかない光景を
透明に澄んで写し出していた。
ー共鳴絵画/キーファー《流出》