街の灯
スプーンな

めずらしく混んだ帰りの電車で、
空いた座席に座って、
向かいの窓に映る自分を見ていて、
ふと、昔のことを思い出した。


小学校五年生くらいのことだと思う。
Y君という友達のアバートで、
テレビゲーム大会をやった。
Y君は、母子家庭だった。
それについて、なんの感想もなかった。
ただ、母子家庭だってだけのことで、
狭いアパートだってだけのこと。

友達どうし、盛り上がって、
ちょっと休憩でジュースでも飲んでいたとき、
なぜか、なんでそうなったのかわからないけれど、
押し入れを開けてみようということになり、
押し入れを開けたら、
上のほうから、エロ本が出てきた。
劇画調の、どぎついエロ漫画だった。
Y君はびっくりしていたので、
つまりそれは、Y君のお母さんの、持ち物ということだった。


ぼくらは、(Y君以外は)腹がよじれるほど笑った。
可笑しくて可笑しくてたまらなかった。
Y君のお母さんが帰ってきて、
ちょっと茶化したようなことを言って、
しらけたけれど、それから、
ぼくはY君をどれだけからかって笑ったかわからない。
面白くてしょうがなかった。


帰りの電車の中で、
うらぶれたサラリーマンのような自分が鏡に映り、
ぼくはとても辛くなる。
ぼくは、もしかしたら、良いこころを持った人間であることに、
自分の支えを持とうとしていたのかもしれないが、
このように、
ぼくは、悪魔そのもののように残酷な子供だった。
つまり、いまのぼくそのものが、悪魔そのものだということでもある。
地獄の業火で焼かれるようなひどいこころ。


あのはにかんだようなY君の笑顔。
どれだけ、悲しかったことだろう。せつなかったことだろう。
いまになって、とつぜん思い当たる。

どう謝ろうにも、残酷すぎて謝りようがあるまい。
善人ぶってもただの善人面だ。
それを引き受けていくしかないこれからの人生なのだ。
どこに救いがあるのだろう。
大げさな感傷なのだろうか。
Y君はいまどこで、何をしているのだろうか。

埼玉県の街の灯りが、
眼鏡の汚れに曇り、
宝石のように輝いているだけだ。









自由詩 街の灯 Copyright スプーンな 2015-12-01 22:18:58
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