裏地のないスカート
はるな


もういいじゃん
バッグが空
よごれてきたけど
樽も空
ついさっき出荷されたのたちが
残していった空気をぜんぶ肺に詰めて
それで忘れないってことにできたらどんなに素敵だろう

なんどもとりかえた靴底がまた擦り減って、
なんどもとりかえた名前も垢だらけになって、
なんどもくる薄まった朝や昼や夜たちが、
もういいじゃんって言ってくる。
だからそのたびにわたしが
違うよたぶんもう遅いから
もっと空を集めたほうがいいんだよってこたえてる

こたえる、テレビドラマに
こたえる、携帯電話に
こたえる、ドアに
ドアたち、愛しいドアたちに
旅立っていったドアたち、ドアたちに
それでもまだここにいる、ドアたちに
わたしはこたえる、だめだ、こたえられない。

緑色の列車
川を越える列車
横転した時刻表
壁越しの会話
質問票
ペン
裏地のないスカート

カーテンレールが思うより頑丈に出来ていること
西日のあたる角度、
16と10月の意味

もう一度無意味を飾る
あたらしい窓
あたらしい名前
あたらしいものばかり見ているから目が潰れてしまった。
嘘はいやだった、
本当のことが、
もうないのだとしても、
嘘はいやだった。



自由詩 裏地のないスカート Copyright はるな 2015-11-30 22:42:36
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