尾行
高橋良幸
日が短い秋の夕暮れに気づいた
俺はあとをつけられている、
たしかに後ろで何かが擦れてリズムを刻んでいる
こうして気づくことはその音速と
歩くスピードの関係で起こる現象だ
俺は尾行者に通告してもいい
気づいている、というサインを音速に乗せてもいい
歩みのスピードを0にする
音速のコントロールは気にする必要がない
俺はあとをつけられていた、
ただし俺自身が背負ったカバンにだった
こうして気づくことはその自意識と
自意識過剰の関係で起こる現象だ
俺は尾行者に通告される
「お前は立ち止まってしまった、そうして考え込んでしまった、」
気づいている。というサインをまだ音速に乗せられない
わかっていた、迷うから歩いていたことを
迷いながら歩いていたのだ
もし立ち止まらなかったとしたら歩いていたこの先に
立ち止まった俺がついていけるのか
俺はあとをつけていくのか、どの俺の
あとをつけていくのだろうか、
立ち止まったまま暮れそうな寒空に耳を澄ましている
ふりしきる紅葉がカサリ、カサリ、擦れて
冬を尾行していくリズム、リズムと
いま歩き出すしかない音に似た鼓動、こどう