瞬間
鷲田

例えば、それは記念日の夕食の
テーブルにある蝋燭が照らす淡い瞬間
ワインで少し赤くなった顔が綻ぶ瞬間
例えば、それは久しぶりに家族で行く海外旅行の
澄み渡る天の青を仰ぎみる瞬間
遠くに見える山々を背景にして笑顔が弾ける瞬間
例えば、それは小春日の公園の中で
桜が風に吹かれて舞う瞬間
暖かい気温の中、桜木の下で皆で楽しむ瞬間

瞬間は何時も忘却の彼方
幸せの塊の固形は瞬間と共に姿を現し、そして、瞬間に消えて行く
まるで、角砂糖が温かい温水に溶け去るかのように
味わいを与え、形を失う

幸せの本質を
灯の本質を
空の本質を
山の本質を
刹那の本質を
娯楽の本質を
われわれに与え

秋の終わりの夕暮れに
四季の無い気温の摂氏温度に
春の陽光の湧き会う人達の心の中に
世界は喜びの瞬間を細胞の隅々まで浸透させ

だが、孤独はと言うと
瞬間に生きるのだろうか

孤独はというと北風に向かって
太陽が落ちる地平線の水面に
波となって砂浜を濡らし続けている

だが、悲しみはと言うと
瞬間に生きるのだろうか

悲しみはというと南風に向かって
記憶の彼方を目指し、
南太平洋を横断している
あの小鳥と共に
永遠に向かって飛んでいる

(感情と共に生きなさい。ただし、その感情は違う性質を持っていることを学びないさい)

西暦2015の街では無数に弾ける喜びの瞬間といつ終わることのない孤独と悲しみが共存し、人々は次の日のカレンダーを開き、又、日常を始めている


自由詩 瞬間 Copyright 鷲田 2015-11-23 23:13:40
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