石を歩く
木立 悟
墓地と背
鎖を手に
見えない声
遠い灰の音
雨が
雨のための径を通り
去ってゆく
傘の無い街を
照らす幻日
呑まれゆくものに
小さなものらに人を見るとき
泪ではない泪に頬を焼くとき
鈍の子を抱こうとうつむくとき
雪解け水が坂を下りる
向かい合う双つの径の
片方だけを人はゆく
水と影を避けようとして
冷たい風にさらされてゆく
誰かの放り投げた実が
窓から入り蝶に変わる
薄く呼吸する灰の胸
屋根の上をすぎてゆく
雨と雨の会話のはざま
近く遠い鈍の指
つまむように なぞるように
触れることなく触れながら
石の背中を歩いてゆく