151122
7号のクリスマスケーキを注文する
7号は当店の標準品ではありませんから
1ケ月前までに願いますと言われ
うーむと呻る
電話口では顔が見えない
見えなくて良かったと
お店に出かけて確信した
綺麗なお姉さんだったからだ
崇拝対象から標準品にならなくて
良かったね
仏壇のお茶を庭先で振ると
お祭りしてくれない神様仏様が
飲むことが出来るから
無名の八百万の神様にも礼を尽くす
唯一神を祝うクリスマスケーキを神様のような振りして
みんなで喰らう日だなんて僕は思わないけど
7号ケーキを注文する時には気がつかなかったことだ
国宝でも重文でもない7号ケーキを焼いてデコレーションする職人
綺麗なお姉さんは、赤いイチゴの配置を考えない
彼女の深い信仰心が遅疑逡巡を許さない
機械的に見えるけれど1ミリも位置を違えない正確さで置いてゆく
まるでデコレーションロボットみたいと口に出していえないほど見事な手つきだ
なんにも知らずに喰らう連中には分からないことも多いのだと
電話口で僕は実感した
ケーキにまつわる話には不思議なことも多いが
大抵はスイートな結末で終わる
唯一神と八百万の神が仲良くしている限り味は落ちない
信仰の対象の森や山はいつまでも同じ佇まいでありたい
和歌でも詠みたいほど君たちも純粋になる甘い日でもあるのだと
ケーキ職人の綺麗なお姉さんは考えている
そんなことあるものかという奴は、ケーキに頭をぶつけて
あの世へ行きなさい
神様が待っているとは思うなよと
意地の悪い悪魔の手下が胡椒をケーキに振りかけている
仏様はそれを黙ってみているが
神様にはすぐに報告されているから
マイナンバー制度が整って以来
悪魔と言えども
その手下と言えども
プライバシーは守れなくなってしまったと
7号ケーキの焼きたての台が呟いていると
その上にグラニュー糖が撒かれて
白いクリームが乗せられ
赤いイチゴが並べられ
あっという間に、クリスマスケーキが完成した
注文した僕は、慌てて自転車を飛ばして受け取りに行ったのだ
以上は嘘偽り無く本当のお話です。
初出「即興ゴルコンダ(仮)」
http://golconda.bbs.fc2.com/
タイトルは、さわ田マヨネさん。