ヨラさん
たけし
ヨラさんは小児麻痺だった
ヨラさんはよく笑った
ヨラさんはそのたび涎を机に垂らした
ヨラさんは頭が良くてクラスでいつも1番だった
僕はヨラさんを笑わせるのが好きだった
僕はヨラさんの涎をそのたびハンカチで拭いた
僕はヨラさんの手を引いてよく一緒に下校した
ヨラさんの手はいつも冷え切っていた
クラスとメートの何人かは「あいつらはできている、気持ち悪いな」とあからさまに笑いながら言った
僕はある日、そいつらを屋上に呼び出して殴り合った
ヨラさんは僕が教室に戻って来ると、黙って鼻血を拭いて消毒してくれた
「あいつらは宇宙人同士だから」
そう言う声が聞こえた
僕らは宇宙人なんだって!
僕はヨラさんに言った
ヨラさんは<きっとその通りだよ>とミミズがのたくったような字をノートに書いて見せ笑った
四年生のクラス替えを前にヨラさんは養護学校に転校していった
最後の日にも僕はヨラさんの手を引いて二人で帰った
ヨラさんの手はそのとき温かく熱を持っていた
ヨラさんは帰宅途中ずっと泣いていたーいつものように足をズルズル引きずりながら
僕はヨラさんが泣くのを初めて見た
僕はヨラさんの我慢強さと天真爛漫さが好きだった
僕はヨラさんが好きだったのだ