散歩《2015年11月18日》
Lucy



渇いた落ち葉を踏んで歩いた
湿ったアスファルトに
暗い空から
時折雪がこぼれてきた

かじかんだ手で傘の柄を握り
歩いたことのない道を選んで
なるべく迷子になるように
帰る方角がわからなくなるように

見たことのない家並み
見たことのない並木道
できれば世界の裏側へ
いつか潜り抜けてしまった抜け穴
生まれる前の記憶のような
あの懐かしい場所へ戻る道

人のコトバも
自分のコトバも
うすぺらいとしか思えない 世界は
とんでもない混乱に突入している 誰も
止められない
誰も立ち止まれない

ただ成行きに任せていたら
いつかのような殺戮の時代へ
濁流に押し流されるように向かうと
わかる気がする
 
でもそれは私のせいじゃない
私は加担していない
私はNOと言い続けてきた
私には何の権限もないし
責任もない
無知で無力な
無辜の民だ
時には憎むことがあっても
努力してみんなと仲良くしてきた
子どもを愛して
一生懸命育ててきた
世界中のだれもがそう思っていて
その先頭に立っている人は
「報復だ!」と叫んでいる

誰か止めなくては
みんな殺される
うちの息子たちだって
楽しみにしていたバンドのコンサートを見に行って
撃ち殺される
私だってカフェで親しい友とくつろいで
おいしいワインを飲んでいて撃ち殺される

その前に何万人もの
シリアの無辜の民が
空爆で手足をもがれ
顔をつぶされて死んでいる

テレビを見ている
だけ 誰かがとめてくれるのを
待っている
だけ
 
ぐるぐるさまよっていた
つもりでも
知っている道へ出てしまう
自分の意志と
自分の怠惰と
自分の足どりを
認識している
 
しかたなくいつものスーパーで
買い物をした
こんな自由なひと時を
とんでもなく幸せだった瞬間として
思い出す日が来るのだろうな

レジ横の鏡をふとみると
見たことのない女の顔が
薄笑い浮かべて映っていた


自由詩 散歩《2015年11月18日》 Copyright Lucy 2015-11-18 19:56:20
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