夜の真昼
木立 悟





両端が見えないほど長い橋の上
ひとつの影が立っている
呼びかけても応えない
近づいても近づいても近づかない


夜の左脚のしびれから
次々に飛び立つ火の鴉
水たまりの波が静まるころ
枯れ枝の声も静まってゆく


木霊の曇が幾筋も伸び
空の厚みを測っている
夜の蒼を千切る音速
光の冷たさを越えてゆく


明るく平衡な無力のなか
風は風を旋している
夜の真昼に満ちる花
抄おうとする手に溶ける花


屋根の上を駆ける音
湖の上の舟に降る音
森の向こうの森に重なり
光は細く分かれてゆく


羽を持つ生きものが
戸口に押し寄せている
羽の音だけが響きつづけている
夜はいつものようにやって来る
























自由詩 夜の真昼 Copyright 木立 悟 2015-11-16 20:58:46
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