ゆび
サダアイカ (aika)


たとえば
男の手を盗み見て
どの指を入れているんだろうかと
思案するとき
大抵中指なのだろうが
どうでもいいが本当は薬指を入れるべきだ
と思う
覗き込むように真剣に
見つめて
「一番使わなくて比較的清潔な指なんだよ」
囁き
微笑んで
視線を患部へ向けて
「だから薬を塗るのにもってこいなの」
秘密
教えるみたいに小声で
息が近い
薬指は白濁の軟膏で
何度も円を描いた
教えてくれた白くて
細い指
まじないのように
擦り傷に
円を描かれるまま
息を殺した
痛い
は薬指にすり込まれたのか
何も言わなかった
皮膚に描かれた円を感じて
目でなぞった
白濁は薬指で透明になっていった
せんせいの指が離れ

「はい、いいわよ」

背を向けた
生暖かい息の気配に包まれたまま
大きく深いため息をついた
男の手を見て
どの指を入れていたんだろうかと
思案するとき
大抵それは中指なのだろうが
薬指かもしれない

言い忘れていたが
それからほどなくしてせんせいは
結婚退職した


自由詩 ゆび Copyright サダアイカ (aika) 2003-11-11 04:12:55
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