鮨詰
高橋良幸

所用でときおり武蔵野線の、中央線から離れていく方向の
ホームで僕は待っている

武蔵野線はむさし野と呼ばれる原野を駆け巡り
中央線は東京23区の中央を貫いていく
それら鉄のレールがレールと交わる駅では
駅ナカでドーナッツでもワインでもおにぎりでも買って
乗り換えをすることができる

大体が朝の8時に武蔵野線のそのホームで
僕は電車を待っている

朝からむさし野を出入りする人物は相場が決まっており
この時間は上りも下りもひどく混雑するわけではない
どちらが上りかは武蔵の知り合いがないので知らないが
思うに、下る先がいつでも野であろう
(そして新秋津で人物がかなり増える!下野だ!下野だ!)

しかし、
上りの線が遅れたその日、向かいのホームには人があふれ
その向かいで僕は待っていた

数分単位の運行はそれだけですし詰めになる
すし詰めもすし詰めで透明なアクリルの重箱に
酢めしがつぶれて魚卵が破裂の瞬間を待っている軍艦が並んだようで
その周りによく熟れた果実と何かのフライと安いチーズケーキをさらに押し込めて
食べ放題1200円のような車両が出発する様子を見ていた、
お元気で
料理名を忘れたままに詰め込まれて味覚をうつろにさせた、
皆さん
ショーケースの中で整然と並ぶ、
自らの味を知らぬままのプラスチックな食べ物よりも不気味に見えた
皆さん

血圧を上げた重い足取りでその車体が立ち去った後
野に下る電車が来て新秋津で人がかなり増えたが
僕らはまだ僕らの名前と味を、覚えていた


自由詩 鮨詰 Copyright 高橋良幸 2015-11-14 23:45:29
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