彼女の名前は、林檎といった
日がのぼり 日が沈んで どんなときも
心に 一つの凛した樹、それが林檎だった
パオバブの木は 特別な木ではなく
桜の木は 花見のときだけが桜ではない
桜は落ち葉落すとき 桜の花の匂いがして
悪い蟲を遠ざけていることや
どんな平凡な木も それぞれに思議の力を蓄えていることを
林檎もまた 知っていた
林檎たちの住まう園に
ある日 盲人たちが訪れた
ひとりにひとりつづ目の見える者を従えている
同じ林檎でも味や香が違うことを目の見えるものが説明していた
踏み台にのぼり 枝の高いところの実と低い所の実の違いを語っていた
目の見える人々が様々な苦労などしなくとも
盲人が 枝にぶらさがった林檎のおしりを天に向けるだけで
林檎は簡単に 新鮮な実を 目の見えぬ人にも与えた
ひかりが満ちていることを
林檎は ひとつの実で 盲人に語った
林檎をふたつに割ると 中心に蜜があるように
樹を心に持つ人には ひかりに包まれていることを
林檎は 黙ったままで 空に示した
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おはようございます。メビウスリングという詩のサイトで【林檎】の詩を投稿しあって
あとで 合評しようという勉強会に投稿した作品です。
もしよろしかったら、ぜひ 御参加くださいませ。
http://mb2.jp/_poem/295.html-525#RES