ひとつ たなびく
木立 悟
雨に映る音たちが
雨の後も浮かびつづけ
夜の片方を震わせて
指の冷たさの上に立つ
ひとしずくはひとしずく
守れなかった約束に
目が覚めては手をひらき
重く冷たい軌跡を聴く
爪のはざまの夜の痛み
生まれては消える泡の痛み
音のかたちに連なる街を
越えては消える指の痛み
雨の筒のなかの声
灯に照らされ歌になり
空の水を動く影
ところどころ消える影
捨てるように腕を投げ出し
曇の動きを見つめている
指に降り立つものたちが
暗がりの風に埋もれゆく
白の痛みを目ですくい
こぼし すくい
こぼし こぼし
夜へと沈む音を呑む
窓を掴もうとして掴めずに
たなびくばかりの指を伸ばし
それでも何かを掴もうとして
奏でられぬものに触れてゆく