フロント硝子
あおい満月

(あれは、何だったか)

火竜になって飛んでいった私の分身が見たものは。
食いちぎられた街、
灰になった街路樹、
口の中が埃臭い。
私は私が街を食い散らかした事さえ覚えていない。

急に何かが叫びたくなって声を上げると
口からは焔が飛び出してくる。
私は魔物になったのか。

私は魔物だ。
見えない鋭い牙を持つ
鱗で覆われた生き物。
蝙蝠のような羽根を持つ背中と、
鷲の嘴のような鋭い爪。
人を愛すると、
魔物になる心。
膝まずいてすべて
喰い荒らしていく。
真摯な両目の底に
薄笑いを浮かべて。

けれど、
今は笑わない。
身体中が怒りで満ちている。
だから街中を喰い荒らす。
醜い魔物が映された、
車のフロント硝子を割る。
中にいるあんたを、 爪で引っ掻いて血を浚う。

やがて陽が傾いて、
月の裾が見える頃、
街を焼きつくす。
けれど、
何故だかはわからない。
私は何にこんなにも苛立っているのか。
何故、魔物になったのか。

まだ、息をしているあんたよ、
教えてくれ、
私は本当は何者なのか。
足元の割れたフロント硝子に映る私は
冷たく泣いている。
本当は幼い少女なのか。


自由詩 フロント硝子 Copyright あおい満月 2015-11-11 21:13:28
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