火竜
あおい満月

私はあらゆるものを切り裂く。
カッターを片手に、
自分の顔が描かれたダンボールを切り裂く。
ダンボールから血が流れる。
不器用な三日月が歪んで溶けていく。
私はあらゆるものを切り裂く。
鏡に描かれた、
愛という甘ったるい幻想もズタズタにする。

切り裂かれた布団から、
白い羽毛があふれて空中に弧を描く。
私には、
切り裂けない唯一のものがある。
それはあの、硝子越しの優しい瞳だ。
痛みなら、
切り裂きたいのに。
私は私の胸を切り裂く。
くすんだ壁に血が飛び散って、
血は蠢く獣になって
窓を打ち破り、
風に宿り、
火竜になって街に食らいつき、
列車に乗り移り、
大都会を燃やし尽くす。


自由詩 火竜 Copyright あおい満月 2015-11-11 21:10:04
notebook Home