死亡欄
ただのみきや
新聞の死亡欄に小さく載りたい
葬儀の予定など一切無しで
ほんの数えるほどの文字
ひとつの死 ひとつの終わり
シンプルで飾りのない
わたしの死 わたしの終わり
事実だけが落ちている
新聞の死亡欄に小さく載りたい
修辞や比喩の旅装束は要らない
普段着のまま「名前」と「死」
知らない人には石ころ並みの文字
知っている人には何かしら
記憶なり 感慨なり
ふっと 匂い立ち
新聞の死亡欄に小さく載りたい
日曜日なら文芸欄の裏手辺りか
人目通りも少ない紙面の墓場
格調高き論説など何食わぬ
政治経済の騒ぎも馬耳東風
流行にも酷い事件にも無反応
生者の紙面に死者として
新聞の死亡欄に小さく載りたい
「イカレタ死ニタガリ」と思われるか
所詮一面も二面も変わりなく
翌朝には一切合切古びてお払い箱
世界は一新されるもの
新聞そのものが比喩ならば
死をもって死を制すも生きる術
遺言よ遺言
鳩のように舞え
蛇のように噛みつけ
《死亡欄:2015年11月8日》