あくがれ出づる
藤原絵理子


虫の音が止んだ
誰かが あたしの名を呼んだ
そんな気がして 振り返る
杉木立の陰から 雌鹿の目が見ている


闇の中に去っていく人に
かける言葉は いつも
木枯らしに引き摺られて 壊れる
篠懸の枯れ葉に 重なる


暖かくやわらかな寝床に ほっと
横たわった時でさえ 憐れにも
心は あなたに向かって翔び立とうとする


水占の溜まり水に 紅いしがらみが
重なって沈んで ぼやける
零れ落ちた涙の波紋は 秋風に


自由詩 あくがれ出づる Copyright 藤原絵理子 2015-11-08 22:09:12
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