不音
はて

記憶は眠りで留められて思い出すときには一つの
うねる襞となっている


まずは糸の一番最後に玉結びを作ります
それから布に針を通していきます
縫い終わりましたら、
しっかりと玉留めをしてくださいね
そうしないと糸は抜けてしまいますよ

教えられたとおりに(いつのことだったのか)
最初に結び、それから縫い目を付けていく
青い布に白い糸が跡を残す

一列の破線

破線の終わりに左の指で布を抑え
始まりのほうへと布を寄せる
白波は襞の内側に沈み
一定の強度のひと群れ
厚みを作った


仕事が終わってから携帯のメールは往復を繰り返すようになる
眠るまでの間に、夜の間に、
メッセージの端っこに付された日付と時間は
一日のブランクを正確に残し、正確に刻んでゆく

いつのことだったのか
襞を端の方から数え始める
何も探してはいないけど


左手の指で寄せた布の襞を抑えたまま
右手の針をもう少し強く引いたら糸が切れ
襞も縫い目も解けて
左手のさらに左に広がった

少しの襞の跡
玉結びの目
糸が抜けた穴


自由詩 不音 Copyright はて 2015-11-08 22:02:39
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