不音
はて
記憶は眠りで留められて思い出すときには一つの
うねる襞となっている
まずは糸の一番最後に玉結びを作ります
それから布に針を通していきます
縫い終わりましたら、
しっかりと玉留めをしてくださいね
そうしないと糸は抜けてしまいますよ
教えられたとおりに(いつのことだったのか)
最初に結び、それから縫い目を付けていく
青い布に白い糸が跡を残す
一列の破線
破線の終わりに左の指で布を抑え
始まりのほうへと布を寄せる
白波は襞の内側に沈み
一定の強度のひと群れ
厚みを作った
仕事が終わってから携帯のメールは往復を繰り返すようになる
眠るまでの間に、夜の間に、
メッセージの端っこに付された日付と時間は
一日のブランクを正確に残し、正確に刻んでゆく
いつのことだったのか
襞を端の方から数え始める
何も探してはいないけど
左手の指で寄せた布の襞を抑えたまま
右手の針をもう少し強く引いたら糸が切れ
襞も縫い目も解けて
左手のさらに左に広がった
少しの襞の跡
玉結びの目
糸が抜けた穴